【ライディング:U】


〜アップウインドにつながるエッジング〜


カイトを陸で振っていた時には、方向などの基準は背中に受ける風の向きだったと思います。
しかし、カイトに引っ張られて進んでいる状態では、乗り手に進行方向からも空気が当たりますので本来の風向というのは分かりにくくなります。
カイトの操作では、ウインドウインドウをイメージするために本来の風向を意識してやる事は大事ですが、
ボード操作に関して言えば、主に 「カイトに引っ張られる方向」(=ラインの方向) に対して気を付けるようにするだけでも大丈夫です。

◎姿勢(ヒールサイドライディング)

「ボードのエッジングをうまくやるには正しい姿勢を取る事が大事。」とよく言われます。
その“正しい姿勢”がどんなものか理解しておけば、エッジングの習得で発生する様々な問題点を解決できるようです。

正しい姿勢の取り方はたったの2ステップ。まずは・・・
        @『ウイングに対し体の前表面を正対させる。』

※身体の傾斜角はだいたいのところでいいです。

姿勢に関しては当面、風向きを意識しないのがミソ。

この姿勢がしっかり実感できれば、
エッジングに必要な姿勢の85%達成できたようなもの。

※実際のライディングでは「ブレーキング」として使える姿勢でもあります。
楽な姿勢ですがカイトからのパワーが増してゆくとエッジが抜けやすい(踏ん張りにくい)姿勢だと言えます。
低速でのライディングなどカイトからのパワーが比較的少ない場合はこれでもOKです。
・・・

カイトがだいたい45°(垂直カイト角)位の位置にある事を想定します。
     (※他の角度にある場合でも応用可能です)
身体全体を真っ直ぐにして斜めの状態、両足を気持ち投げ出すように、スタンスはボードのストラップ幅になります。

カイトに引っ張られる方向に対して身体をひねったりしないように自然に構えます。
この時、首だけを起こして膝を気持ち曲げ気味にします。

コントロールバーを握ってはいますが、握力と腕で体を支えている訳ではないので上半身は多少キツイ姿勢です。


それからこの体勢のまま・・・・

A『進行方向後ろ側に位置する足を半歩さげます』
※この時、進行方向側の足(前足)の位置を変えない様にします。

・・・・・・

ボード、2つのストラップ幅にスタンスが決まっているので、後ろ足はちょうど前足を中心に円方向に後ろに来ます。
この時に腰をひねらないようにします。(ちょうど足だけで半歩下がったような状態です)

 引いた方の足(後ろ足)は、ちょうど体の重心に近い位置に寄せられる事になります。

ライディング中は、
この後ろ足が 「体重」、「カイトからのパワー」や「水面からの反発力」などを支える中心的な役割を担います。
一方の前足は、ボードのディレクション(方向決め)、ジャンプやトリックのきっかけ作り(タイミング取り)などを担っています。

 (まあ、現実的にはそのようにきっちりと前足、後ろ足の役割が分かれているわけではないのですが、
   乗っている時の記憶をたぐってみるに、説明としては割としっくりくるのではないでしょうか。)



あとは頭を進行方向に向けてやると、エッジングも見た目もバッチリキメられます。


【参考】

ライディング中の上記のウイング位置と姿勢の関係が、風向き方向に対してどんな位置になるかを表しておきます。

「進行方向に対して身体を開いた状態」「ボードの方向がアップウインド方向であること」など指摘されやすい部分については条件を満たせているかと思います。
ボード操作についてはやはり、「本来の風向きに対して」よりも「カイトに引っ張られる方向に対して」意識を向けるのがシンプルで都合がいいようです。
・・・・


【その他の う・ん・ち・く】

ライディングの姿勢はカイトボーディング独特ともいえるものであり、ライダーはウイングと綱引きをしているとも言え、そのパワーに無理なく対応する為に、腰を折りまげすぎないように前に入れながら、ヒザは少し曲げ柔軟なボード操作ができるようにします。

 カイトからのパワーは足の筋肉を最大限に使いダイレクトにボードに伝えるように意識します。
特に、アップウインド中やスピードレベルを高めたパワーライド中などには、腰の曲げ伸ばしでのパワーコントロールなどはあまり多用しない方が好ましいようです。

ライディング中には、このヒールサイドエッジングの姿勢を取っている時間も多いかと思います。
 この辺の姿勢取りをあいまいに次に進もうとすると、腰痛など身体の健康などにも影響を及ぼす場合も考えられます。
これには、陸上でコントロールバーを吊ってライディング時の斜めの姿勢を取ってみて、その時の体への重力のかかり具合などを確認したり、自分のライディングをビデオに撮影してもらって客観的に姿勢をチェックするのも良い方法です。


あともうひとつ。
練習をしていてうまくいかない時など人からアドバイスをもらう事がありますが、ことボードのエッジングについてはアドバイス通りにやってみてもその解決は難しい事があります。(理由として、その姿勢取りがかなり三次元的で、その基準自体が重力方向なのか斜めになっている体軸方向なのかが把握しにくいなど、言葉だけで表すのは意外に難しい事が挙げられます。)
良く受けるアドバイスとして、
     ◎「前足は膝を曲げずに伸ばし気味にする」
     ◎「進行方向に身体を半身(はんみ)程開く」
     ◎「ウイングを極力見ないで進行方向を見る」
     ◎「ボードの向きを風向きに対して真横より風上方向に」

これらのアドバイスはそのものが間違っている訳ではないですが、多くの場合において それが部分的なものである事が多いので、アドバイスを受けた側にしてみれば「今乗れている感覚」に「アドバイスを受けた部分」を足していく形で対処してしまう事が多いです。
結果的に、ただ「乗るだけ」「アップウインドするだけ」の事にも、複雑な力加減と姿勢を維持しなければならないかのように思いがちです。

もしも練習の時に迷ったらシンプルに “正しい姿勢を取る” という段階にもどってみるのが解決の近道だと思います。


◎スピードとパワーへの対処。

進行スピードが増してくると、ウイングには更なる揚力が発生するので、カイトのパワーも強くなります。
このスピードとともに増加するパワーは、乗り手がより速く進む事を可能にしますが、同時に風下に方向に引っ張られるパワーも増加することを意味します。
より速い進行スピードを維持し続けるということは、より強いパワーに対して耐え続けなければいけないワケです。

カイトから受けるパワーの増加に対しては、反対方向に体全体を傾けるようにすることで支えるようにします。
(フックを掛けている時は、ハーネスに強めに体をあずける具合です。)
こうすることで自分の体重を最大限利用し、“構造的に”カイトのパワーをダイレクトにボードに伝える事が出来るので、より大きなパワーに対応できるようになります。

この時の注意として“できるかぎり”胸部だけを起こすようにして腰を折り曲げないようにします。ウイングが低い位置にある場合にはコントロールバーの位置が遠くなってしまい難しい場合がありますので“できるかぎり”でokです。
この傾きの変化は、ウイングの高さ(カイトの垂直角)に応じてというよりは、その時出ているスピードに応じてじわじわ角度を取るようにするといいです。


◎ボードの踏み方
バランス取りの安定しやすい姿勢の一例
意識的に行わないと取りにくい
無意識に取とってしまう姿勢の一例
バランス取りには不向き
 ボードのエッジングは上記の事柄だけでも足りるかと思いますが、更なる充実を図る意味で以下も載せてみます。

 人間に生来備わった性質として、身体に対して「押される」「引かれる」などの予期しない「外からの力」が加わった場合、とっさに身体全体に「身を縮めるような力をかけてしまう事」が多いと言われます。
 どういうことかというと、びっくりした時に「つい緊張してしまう状態」「つい身構えてしまう状態」のことだと捉えてみると感覚的に分かりやすいでしょう。
 なぜ無意識にそうしてしまうかといえば、それらは本来「外から受ける力」に対して“身体を守る為”の身体機能のひとつだ(だった)と考えられています。
 時としてその強さや方向が判別のつかない「外からの力」に対して、真っ向から対抗してしまい身体に大きなダメージを受けるよりも、最初から手足を折り曲げてしまって「外から受ける力」にあまり抵抗しないで、場合によってはそのまま転がってしまう方が“身体を守る為”には効果的な場合が多いからです。
これは、特に「危険」に対する経験と認識が少ない幼年期(体重が少なく、手足が伸びきっていない、体の柔らかい、力の弱い時期)などには効果の高い働きだと言えるでしょう。

ところが、この本来の“身体を守る為の働き”は、成長するに従ってあまり好ましい結果を生まない事が言われています。
幼年期と違って、成長にともなって身体も大きくなって体重も増え、手足が伸び、身体も硬くなり、筋力も付いてきます。かつてと同じ感覚で対処してしまうと、かつてよりも大きなケガを負いやすくなっていくことが言われます。
例えば、
 ●体重の増加にともなって同じような転倒などでも、身体に及ぼす衝撃力は増加する。
    (身長など身体の各部の長さの増加でも同様の事が言える)
 ●骨格自体が固まって柔軟性が無くなり衝撃などを吸収の効率が悪くなる。
 ●増加した筋力で手足をがっちり折りたたんでしまうとかえって柔軟性を殺してしまう事がある。
などのマイナスの要因が知らず知らずのうちに増えていくのです。

 成長するにしたがって、この“身体を守る為の働き”自体も「自動的に」適切な働きをするものに切り替わってくれればいいのですが、人間の身体はすべてにおいてそう都合良くはできていないのが実情です。
 このあたりの事はかなり後天的な要素、つまりスポーツなどの身体を動かす経験の度合いなどによって左右され、かなりの個人差があります。
しかし、それが実感できるかどうかに関係なく、未経験なスポーツや新しい技術にチャレンジするような場合などには、こういう原初的な反射がよみがえり知らず知らずのうちにやってしまっている事はあまりめずらしいことではありません。

 全身の力を上手く使ってさえやれば大きくバランスを崩さないで対応できるレベルの「外から受ける力」に対してさえも、反射的についつい「緊張させてしまう」「身がまえてしまう」といった事をやってしまっている場合があるのを、頭の片隅に置いておくとそれが上達に行き詰まった時などに解決の糸口になる事があります。


【「外からの力」の変化(図では振動)が激しい状況でのバランス取り】
※「身構えてしまう」と不安定。
全身の筋肉をバランス良く連動させにくい
※変に身構えないでゆったりした姿勢。
目線も遠くに持って行くとさらに安定


 ここで、つい「身構えてしまう」状態の特徴をまとめるならば、

●重心に近い位置で支えがちな不安定な状態
●部分的に筋肉を緊張させている状態(=全身の力を効率良く連動させにくい状態)

の、いわば “身体の内向き、内側に力が入った状態” であると言え、「身体のバランス取り」に適切な動作であるとは言えません。

 より適切なバランス取りを実現したいとするならばこれとは逆の動作で対応させる、すなわち、

◎重心から遠い位置で支えられる安定した状態
◎始めから筋肉に過度な緊張をさせない状態(=効率的に全身の力を連動させやすくなる状態)

の、いわば “身体の外向き、外側で支える姿勢” を心がけるようにするのです。

この事は、もともとが本能的な反射の事なのですぐには直りにくいと言えますが、
改善の手始めとして、バランスを崩しそうな時などに「外向き、外側の力」をイメージするだけでも違ってきます。


 それともうひとつ、
体のバランス取りにとって大事な要素として、頭の中の三半規管(内耳)が重要な役割を持っているのが知られています。
これに加え、歩いたり走ったりといった能動的な重心移動が伴う運動をする場合には、足の裏で感じられる圧力の変化というのも大きな役割を果たしている事が知られています。
人間は主にこの足の裏からの感覚的な圧力の変化に応じて、自然に全身の筋肉を連動させながらバランスを取るようにできているそうです。

足の裏側に掛かる圧力はご存じの通り足の裏の末梢神経で感じる事ができるのですが、
その圧力を感じる末梢神経の分布を見ると、いわゆる「土踏まず」の部分は比較的その密度が低く、
逆に、その外側のアーチ状の部分で特に
○拇指球(親指の付け根の肉厚部分)
○小趾丘(小指の付け根の肉厚部分)
○カカト
○親指
においては密度が高いとされます。

 これら「末梢神経の集まった鋭敏な部分」で体重を支えるようにすると、重心移動などの変化に対しても鋭敏になるために、その時の動作に応じたよりよいバランスを取る事が可能となります。
しかし、反射的に身構えた時のように内向き内側に力が入っている状態では、土踏まずの部分でも体重を支えがちになり、掛かる圧力は足の裏全体に分散してしまい、個々の末梢神経で感じられる圧力が弱くなって脳への刺激が鈍り、結果、バランス感覚もフルに発揮しにくい事が分かってきています。

(統計的にも、扁平足の人はスポーツが苦手な人が多い事が言われますが、その原因がこの辺りの事に求められるのかも知れません。)


 カイトボーディングにおいてもバランス取りは重要な要素なので、
上記のような知識はボードの踏み方に応用が効くはずです。
 まとめてみると、
◎土踏まずをしっかり作る。(普段から意識して運動すると健康にもいいそうです)
◎決められたボードのスタンス幅にあっても、なるべく“ボードの外側を押さえる”よう意識する。
◎バランスが不意に崩れても、できるだけ身を固くしないでゆったりとした正しい姿勢を維持する。
◎外側、外向きの支える力をイメージする。

 特にこのスポーツはライディング中少なからず体が斜めの状態になる事が多く、中でも三半規管系のバランス感覚は普段と同じようには働きにくい瞬間があるので、足の裏で感じられるボードから受ける圧力の変化というのは、その時のライディング状態を把握する為の大切な手がかりだといえます。

これらの事も実際のライディングの時に気を付けてみると、良い「テゴタエ」として実感できるようになるかもしれません。


※古武術の世界では、この体を縮めるように足の内側に力が掛かった状態を「内旋」、
 足の外側に力を掛ける状態(又はそれを可能とする基本姿勢)の事を「外旋」と呼んでいるそうです。
 (テニスなどでは肘の可動範囲の説明などで使いますが、同じ単語でも意味は全然違うようです。)



▼メニューセントラルへ  ▼トップ  ▼Kite-rider.com